ニューキノロン(米国での名称:フルオロキノロン)系の抗生物質について、
エーラス・ダンロス症候群の患者に関わる注意喚起の情報が
アメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)から、また
厚生労働省から「使用上の注意」の改訂について通達が出されましたので
お知らせいたします。
患者会にご協力いただいています専門医から本件についてのコメントを
いただきましたので併せてご紹介いたします。
エーラス・ダンロス症候群の患者さんは、下記内容をお読みいただき、
診察の際、医師にご相談ください。
アメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)からの警告内容:
2018年12月18日付け FDA 発信情報より
https://www.fda.gov/Drugs/DrugSafety/ucm628753.htm?utm_campaign=Local%20%26%20Community%20Events&utm_source=hs_email&utm_medium=email&utm_content=68564798&_hsenc=p2ANqtz--gf9e6yKEuk2rZn1ENzgbYxRqHLIVSOtm9ggUrLvW0WKKNahU3oBBDLlGb38Tj2uPu6J5dTdWXY41b8MFSBfQgesf6ztLAfVb6FyoFlqM6ecZbFSY&_hsmi=68564798
【和訳概要】
・FDAの調査によると、フルオロキノロン系抗生物質は、稀ながらも深刻な疾患である大動脈瘤の破裂または大動脈解離の発生を増加させる可能性があります。大動脈瘤の破裂または大動脈解離は、危険な出血を引き起こし、ひどい場合には死に至ります。これらは、経口摂取もしくは注射による全身投与により引き起こされる可能性があります。
・他に代替え可能な治療法の選択肢がない限り、フルオロキノロンは大動脈瘤や大動脈解離発症リスクのある患者に使用すべきではありません。発症リスクのある患者には、これまでに大動脈または他の動脈の閉塞または動脈瘤(異常な隆起)や、高血圧症、血管変化を伴うことが知られている特定の遺伝性疾患、および高齢者が含まれます。
FDAは、このリスクについての新しい警告をすべてのフルオロキノロンの処方情報と患者の投薬ガイドに追加することを要求しています。
・フルオロキノロン系抗生物質は特定の細菌感染症の治療に承認されており、30年以上使用されています。この薬は病気を引き起こす可能性のある細菌を殺菌したり増殖を止めたりすることによって作用します。治療をしなければ、一部の感染症は悪化し、深刻な健康問題を引き起こす可能性があります。
・医師は、大動脈瘤の患者や大動脈瘤になるリスクの患者、つまり、閉塞性動脈硬化症、高血圧症、マルファン症候群やエーラス・ダンロス症候群などの特定の遺伝性疾患もしくは高齢者などの大動脈瘤のリスクのある患者にはフルオロキノロン系抗生物質を処方することを避けるべきです。これらの患者へのフルオロキノロンの処方は、他の治療法が利用できない場合にのみに限ります。患者に大動脈瘤に関連した症状があれば直ちに治療を受けるようにアドバイスしてください。患者が大動脈瘤または
解離を示唆する副作用を報告した場合は、直ちにフルオロキノロン治療を中止してください。
・患者は、胃、胸部、または背中に突然、激しく、そして絶え間ない痛みがある場合、
直ちに医師の診察を受けるべきです。大動脈瘤の症状は、動脈瘤が大きくなるか破裂するまで現れないことが多いので、フルオロキノロンを服用したことでいつもと違う副作用を認めた場合は直ちに医師に報告してください。動脈瘤、動脈の閉塞や硬化、高血圧、マルファン症候群やエーラス・ダンロス症候群などの遺伝性疾患の既往がある場合には、抗生物質の内服を開始する前に、医師に知らせてください。感染症の治療のためにフルオロキノロンを処方されている場合には、医師に相談してから抗生剤を中止して下さい。
厚生労働省の通達:
薬生安発0110 第2号 平成31年1月10日
別紙4および5 624 合成抗菌剤
出典:厚生労働省ホームページ
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000466525.pdf(以下、一部抜粋)
【措置内容】以下のように使用上の注意を改めること。
[慎重投与]の項に
「大動脈瘤又は大動脈解離を合併している患者、大動脈瘤又は大動脈解離の既往、
家族歴若しくはリスク因子(マルファン症候群等)を有する患者」を追記し、
[重要な基本的注意]の項に
「大動脈瘤、大動脈解離を引き起こすことがあるので、観察を十分に行うとともに、
腹部、胸部又は背部に痛み等の症状があらわれた場合には直ちに医師の診察を
受けるよう患者に指導すること。
大動脈瘤又は大動脈解離を合併している患者、大動脈瘤又は大動脈解離の既往、
家族歴若しくはリスク因子を有する患者では、必要に応じて画像検査の実施も
考慮すること。」
を追記し、[副作用]の「重大な副作用」の項に
「大動脈瘤、大動脈解離:大動脈瘤、大動脈解離を引き起こすことがあるので、
異常が認められた場合には適切な処置を行うこと。」を追記する。
専門医 森崎隆幸先生(東京大学医科学研究所附属病院 総合診療科)のコメント
・ニューキノロン系の抗生物質と動脈瘤・動脈解離の因果関係は高齢者ではリスクと考えられるとする論文報告が複数あり、
高齢者だけでなく、若年でもリスクが増加するとの報告もあることから、
FDAは予防原則の観点から警告が出されたと考えます。FDA警告に基づいて厚生労働省の注意喚起が発表されています。
なお、FDAの記述、また、論文掲載の雑誌のレビューには、マルファンあるいはエーラス・ダンロスのことが例示としてリスクのある方として記述されています。
また、高齢者のみならず、30代、40代でも薬剤服用の有無と大動脈瘤、動脈解離発症リスクが上がる結果も示されています。
・注意点は、若年層は発症患者が少ないので、結果の検証には多人数の検討が必要となることです。薬剤と動脈瘤、動脈解離へつながる変化との関係については、
ニューキノロン系の抗生物質がメタロプロテアーゼという蛋白質分解酵素の活性増加を
来たし、コラーゲン線維の変化を引き起こすことが知られていますが、
マルファンあるいはエーラス・ダンロス症候群での作用についてはさらなる検討が
必要と考えられます。
ただし、コラーゲン線維の変化は、エーラス・ダンロス症候群では病因そのもの
ですので、マルファンよりむしろエーラス・ダンロス症候群でのニューキノロン系の
抗生物質の使用を控えることは理にかなっていると考えられます。
・なお、動脈瘤や解離のみならず、網膜剥離、腱、筋、関節の障害などとの関係の報告もありますので、(他に代替薬がない場合を除き)エーラス・ダンロス症候群での
ニューキノロン系の抗生物質の使用は控えることは望ましいとすべきかもしれません。
生命の危機に直結するという意味では、血管型エーラス・ダンロス症候群が
今回の警告の対象と考えられますが、他の型でも注意は必要と思います。
・なお、今後も薬剤と疾患の関係については研究検討の継続は必要と思います。
専門医 神吉佐智子先生(大阪医科大学付属病院 心臓血管外科)のコメント
・FDAは、2017年以前から「フルオロキノロンは、不可逆的かつ永続的な機能障害が
多発するリスクがあるため、重篤性の高くない感染症に使用しないこと」などの警告が
出ていました。2017年に腱断裂のリスクが追加され、2018年12月に大動脈解離・瘤の
リスクが追加されました。
フルオロキノロンは、日本ではニューキノロンと言われている薬剤です。
・ニューキノロンは、以前から腱断裂、大動脈解離・瘤を発症した症例が
報告されており、原因として結合組織の脆弱性を惹起する可能性が
示唆されています。
・今回のFDAの勧告ではマルファン症候群、エーラス・ダンロス症候群、ロイスディーツ
症候群、大動脈解離・瘤の家族歴もしくは既往歴のある方、高齢者は、
ニューキノロンによって大動脈解離・破裂のリスクが高まる可能性があると
されていますが、ニューキノロンによる腱断裂のリスクファクターには、
他に腎不全、ステロイド内服中も含まれています。
・エーラス・ダンロス症候群の場合、血管型はもとより、腱断裂が報告されている病型の
患者さんは、今後治療を受ける時に、他に代替方法がない場合以外はニューキノロンは
処方しないでもらってください。
・なお、現在ニューキノロン系抗生剤を内服中の患者さんは、絶対にお薬を勝手に
中止しないでください。ニューキノロン系抗生剤は非常に効果の高いお薬です。
ニューキノロン系抗生剤を内服中の患者さんのうち、人工血管や人工弁などの人工物の移植を受けている場合には、抗生剤を自己判断で中止すると即時に命に係わる可能性があります。ご自身のお薬にニューキノロン系抗生剤が含まれているかどうかについては、担当医にご相談ください。
以上
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